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[猫のよくある病気]FIP(猫伝染性腹膜炎)

FIP(猫伝染性腹膜炎)という致死性の病気(2022年9月追記)

~院内でできる抗体検査やMUTIAN(ムティアン)を使用した治療法について~

2019年12月に新型コロナウイルス感染症の報道がされてから、かなりの月日が経ったように感じます。
今や、世界中でコロナウイルスの名前を知らない人はいないのではないでしょうか。

実は、ネコの世界においてコロナウイルスというものは昔から有名なものがありました。
その中で特に問題となるのがF I P(猫伝染性腹膜炎)ウイルス感染症です。
以前は発症すればほぼ助からないとされていた厄介な病気なのですが、近年多くの研究がされており、病院内で迅速にできる検査や、中には命が助かったとされる報告もあります。

ここでは、私が知り得た情報をまとめてみたいと思います。

 

○FIP(猫伝染性腹膜炎)とは

感染しているネコの尿や便、唾液、鼻水から体の中に入ってきます。
発症は全年齢に起こるとされる報告がありますが、特に1歳未満では症状の進行が早く、数日で亡くなってしまう事もあります。
症状は、FIPならこの症状!というものは無く、発熱や食欲低下、腹・胸水の貯留、腫瘍の形成など様々です。
これらに関してはブログの方でまとめておりますので、参考にしてみてください。

 

【ネコ】新しい治療法が出てきた?猫伝染性腹膜炎(FIP)とは1~4
https://ameblo.jp/you-juisi/entry-12642962089.html
https://ameblo.jp/you-juisi/entry-12643827512.html
https://ameblo.jp/you-juisi/entry-12643827980.html
https://ameblo.jp/you-juisi/entry-12646391242.html

 

○ウェットタイプとドライタイプ

FIPを発症した場合の症状によって分類することができます。

・ウェットタイプ
黄色の胸・腹水が溜まるタイプ。溜まった結果、胸が圧迫されて呼吸がしにくくなったり、お腹が膨らんだりします。
発症後の中央生存期間は約8日と言われています。

・ドライタイプ
様々な臓器やリンパ節に腫瘤をつくるタイプ。その結果、腎不全や肝不全などを起こします。

・混合型
ウェット、ドライのどちらの症状も起こすタイプ。

 

○FIPの検査は?

確定診断を出すには、病変部や胸・腹水などの滲出液からの抗原検査を行う以外にありません。
ただし、それらの材料を必ずしも採取できるわけではないので、症状や血液、抗体、遺伝子検査を組み合わせて総合的にFIPと診断する事もあります。
他にも、胸・腹水の貯留や腫瘤を探すためにレントゲンやエコー検査、CT/MRI検査を行う場合もあります。

 

○FIP発症前に調べることはできないのか?

調べることはできますが、FIPウイルスなのか猫腸コロナウイルスなのかを判別することは困難です。

ただ、抗体検査を行うことで「コロナウイルス陰性」と分かれば1つの安心材料になり得ると考えられます。
FIPを疑う場合だけでなく、新しい猫ちゃんをお迎えするときなどにもご利用いただけます。
もちろん、陽性だったからと言って慌てる必要はありません。定期的に経過をみていくことで診断を進めていきます。

最近は、院内で血中ネココロナウイルス抗体を測定できるようになっています。
採血をして1時間ほどで結果が出ますので、FIPと診断するまでの時間を短縮可能です。

 

○FIP発症前に調べることはできないのか?

GS-441524とは、ヌクレオシド類似体というものに分類される化合物です。
ヌクレオシド類似体は、様々なウイルスや細菌感染・がん・リウマチなどの治療薬として利用されています。
この物質が、FIPに効果がありそうだという論文が発表されたことで話題になりました。
論文中では、研究に用いられたFIP発症猫は31頭いましたが、GS-441524の投与により24頭(再発後、再度GS-441524を投与した個体を含む)が健康を維持していると語られています。

詳しくはこちらをご参照ください。
翻訳アプリなどを使用すればなんとなくわかると思います。

これまで治らないとされていた病気でしたので、獣医業界に衝撃が走った論文でした。
ただ、GS-441524はヒトの製薬会社さんで開発されて特許を取られています。さらに、この会社に動物用医薬品部門が無いことを考えると、商品化されるのはかなり先の話になると予想されます。

 

○どうしても手に入らないものなのか?

せっかく効果があるかもしれないとされているものがあるのに、目の前で苦しんでいる猫ちゃんをただ見ているだけしかできないのでしょうか。

実は、中国の会社さんからFIP治療薬(薬として認可しているのは中国国内だけです)としてMUTIAN(ムティアン)という製品が販売されています。
日本国内では未承認動物医薬品という位置付けとなります。

成分は
・クロシンI(色素の成分名と思われます。)
・ニコチンアミドモノヌクレオチド(老化を抑えるサプリメントとして知られている)
・S-アデノシルメチオニン(SAM-eとして知られるサプリメントの成分。動物業界では肝疾患などに使用される)
・シリマリン(肝細胞の保護作用や抗酸化作用を目的として、日本国内でもサプリメントの形で販売されている)
・MUTIAN X(目的の主成分)
・微結晶セルロース(薬の形を整えるもの)
と表記されています。

このMUTIAN XがGS-441524ではないかと予想されます。
(残念ながら、明言されていません。)


また、最近カプセルタイプから錠剤タイプへ剤形の変更がありました。
格段に嘔吐が少なくなり、投与しやすくなったものの、使用成分が明記されなくなってしまいました。
個人的な使用感にはなってしまいますが、FIPの治癒率に変わりは無いと感じています。

MUTIAN協力病院として(2021.6現在)15件の動物病院がありますが、協力病院となるためにはいくつかの条件があるため、当院をはじめ認定されてはいないけれど処方できる病院も多数あると思われます。

 

○FIPの予防薬としての使用法も期待される?

現在、FIPは弱毒性の猫腸コロナウイルスが突然変異を起こすことで感染・発症するとされています。
その猫腸コロナウイルスにもMUTIANは有効であったと報告されています。

Oral Mutian®X stopped faecal feline coronavirus shedding by naturally infected cats
この論文では、猫腸コロナウイルスに感染しているネコ29頭にMUTIANを投与した場合、短期間でウイルスを根絶できたとし、さらに実験終了までの約5ヶ月間は再発を認めなかったと言われています。

FIPウイルスの元となっている猫腸コロナウイルスを根絶できるということは、FIPの発症抑制にも効果があるのではないかと考えられます。

 

○MUTIANの問題点

ここでは書ききれませんが…
・動物用医薬品ではなく、未承認動物用医薬品という位置付け。
・かなり高価であること。
・本来、GS-441524は米国で開発されたもの。
・上記の問題点を踏まえると、正規品として製剤化される日が遠くなる可能性。
・MUTIANにはGS-441524が含まれると明記されていない。
・中国からの個人輸入となる。
・新型コロナの影響により、在庫が不安定となる可能性
などなど。

ただ、実際の治療報告は多数出ていることも事実です。
1日も早く、正規品としての薬剤が入手できるようになることを願ってはおりますが、願っているだけでは今現在FIPで苦しんでいる動物を助けることはできません。

様々な意見はありますが、当院ではMUTIANの導入をすることに致しました。


*ここでは便宜上「MUTIAN」という言葉を使用していますが、MUTIANは会社名でありお薬の名前ではありません。正式には、「Xraphconn」という名称です。

 

○MUTIAN以外の選択肢(2022年9月 追記)

近頃、いくつかの会社でGS-441524を含む製剤を販売する様になりました。
当院でも可能な限り安価で提供できるよう検討を繰り返しております。

MUTIANのメリットは、これまでに使用してきたデータが多数あることです。
つまり様々な状況のFIP症例に対して、この用量で使用すれば治癒率が一番高い、ということがわかってきています。

その一方で、他社のGS-441524製剤(FIP治療薬)は安価であることが多いです。
ただし、まだまだデータが少ないため、「このお薬で治りますか?」というご質問には自信を持ってお答えすることができません。

様々な問題を抱えているお薬ではありますが、結局のところ費用の問題で治療を諦めなくてはならない方が多数いらっしゃるのも事実です。
MUTIAN社ではなく、他社GS-441524製剤(FIP治療薬)の導入もしております。
ご相談の上にはなりますが、処方可能ですのでぜひ一度ご相談ください。


〒167-0022 東京都杉並区下井草1-23-2  ガイア動物病院
tel. 03-5311-1250
院長 松田

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